東京高等裁判所 昭和42年(ネ)412号 判決 1967年11月27日
控訴人 長坂八郎
控訴人 長坂久仁代
右両名訴訟代理人弁護士 坂上重守
被控訴人 浦田砂利株式会社
右訴訟代理人弁護士 外池康治
主文
本件控訴は、いずれも棄却する。
控訴費用は、控訴人らの連帯負担とする。
事実
控訴人らは、「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次の点を付け加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
被控訴人は次のとおり述べた。
(一) 本件約束手形は、控訴人長坂八郎が被控訴人から買受けた砂利、砂の代金支払いのため、その振出日に、被控訴人あて振出、交付したものである。
(二) 控訴人長坂久仁代は、昭和四〇年九月末ころか一〇月初めころ被控訴人に対し、右長坂八郎の手形上の債務を連帯保証するため、右手形に共同振出人として署名したものである。控訴人らは、被控訴人の右主張に対し(一)、の事実は認めるが、(二)の事実は否認すると述べ、<以下省略>。
理由
被控訴人の本訴請求に対する当裁判所の判断は、原判決説示の理由中、控訴人久仁代の責任に関する部分<証拠省略>を次のとおり補正するほか、右判決理由と同じであるからこれを引用する。
甲第一号証の本件約束手形(横書きの手形用紙に被控訴人主張の手形要件が記入されたもの)が控訴人八郎の作成、振出にかかるものであり、その表面の振出人「長坂八郎の記名、押印」(横書き)のあと(右側)に並んでなされた控訴人「長坂久仁代の署名、押印」(横書き)が真正のものであることは、当事者間に争いがない。ところで、手形法七七条三項、三一条三項、四項によると、約束手形の表面にした単なる署名は、振出人のためにした保証とみなされるので、本件約束手形の表面になされた右控訴人久仁代の署名、押印を、振出人八郎のためにした保証と認めるべきか、それとも共同振出人の署名、押印と認めるべきであるか、疑いの存するところであるが、右両名の記名、署名の体裁をみるに、振出人長坂八郎の記名、押印は、振出人のそれが予定された箇所に、一見してその振出人であることが明認されるような態様で、比較的幅広く、大きな文字でなされており、その記載態様からみて、他の者が共同振出人として記名、押印することを予定したような字くばりではない。これに比べ、控訴人久仁代の署名、押印は、右八郎の記名、押印のあと(右側)の比較的狭い余白に、つまった字くばりで記載され、必ずしもこれが八郎と並んで、共同振出人として署名したものとは断定しがたい態様でなされている。そうした記載の体裁に照らして考えると、本件約束手形の表面になされた控訴人久仁代の右署名、押印は、前記手形法条の趣旨にのっとり、振出人八郎のためにした手形上の保証とみるのが相当であると解するそうだとすると、控訴人久仁代は、手形法七七条三項、三二条一項により、手形保証人として控訴人八郎と同一の責任を負うものといわねばならない。(もっとも被控訴人は、控訴人久仁代に対しても、法律的には共同振出を主張してこれが手形金の支払いを請求しているが、事実として、同控訴人は、控訴人八郎が昭和四〇年七月三一日被控訴人あて振出した本件約束手形に、同年九月末ころか一〇月初めころ右八郎の手形上の債務を連帯保証するため署名した旨主張しているので、それが共同振出人としての署名であるというのは一つの法律的見解にすぎないものというべく、したがってその見解に拘束されることなくこれを手形保証人の署名と解して控訴人久仁代に対する右手形金支払の請求を容認しても、当事者の申立てない事項について判決をしたことにはならないものと解する。)
控訴人久仁代は、同控訴人の右署名、押印は、被控訴人代表者浦田マツの息子が控訴人久仁代に対し、母マツに見せるだけで責任は問わないから署名、押印をしてくれというので、その趣旨でしたにすぎないから、同控訴人には手形上の責任はない旨抗弁するが、これに添う控訴人八郎の原審、控訴人久仁代の当審各本人尋問の結果は、原審証人浦田清次の証言に照らしてたやすく信用できない。かえって右浦田証人の証言と甲第一号証に照らして考えると、控訴人久仁代は昭和四〇年九月末か一〇月初めころ、被控訴人(代表取締役浦田マツの子で、同会社取締役の浦田清次)から、さきに同控訴人の夫八郎が被控訴人あて振出、交付した本件約束手形上の債務につき連帯保証をし、右手形に署名、押印することを求められ、これに応じて右手形に上記の署名、押印をしたと認めることができる。したがって、右抗弁は採用することができない。